新しい人が入ってくれた。それなのに、教える時間が取れない。忙しい時間帯に口頭で説明し、次の日も同じ説明をして、「これなら自分でやった方が早い」とつぶやいてしまう——小さな職場でよくある光景です。
原因は、仕事の手順が「頭の中にしかない」ことです。頭の中の仕事は、教えるたびに口から出し直すしかなく、その人が休むと現場ごと止まります。
この記事では、手順書の「たたき台」をAIに任せ、現場の確認と仕上げは人が担う作り方を紹介します。AIに渡すのは作業のメモだけ。レシピの分量や金庫の扱いなど職場の秘密は入れず、安全に関わる確認は必ず人が行います。

「自分でやった方が早い」の正体
口頭だけの教え方には、3つの弱点があります。教える側は毎回ゼロから説明することになり、聞く側は「もう一度聞いていいのか」とためらい、そして仕事はその人に張り付いたまま残ります。
手順書があれば全部解決、と言いたいところですが、多くの職場で手順書づくりは「いつかやる仕事」のまま放置されます。白紙に向かって書き起こす時間が、いちばん確保できないからです。AIに任せたいのは、まさにこの「白紙を埋める」部分です。



扱うのは日常業務の手順書。安全の最終判断は人
この記事で扱わない:機械の操作・薬品の扱い・介助など、安全や衛生に直結する手順の中身の判断(取扱説明書・法令・専門家の指示が正です)。レシピの分量、仕入条件、金庫・パスワードの扱いなど、職場の秘密もAIに入れません。
AIが作るのはあくまで「読める形のたたき台」です。手順そのものが正しいか、安全かの判断は、現場と人の仕事として残します。
基本は4段階:メモ、たたき台、質問、現場確認
作業名と流れを箇条書きで渡すと、AIが手順書の形に整えます。次に、AIに「抜けている工程を質問して」と頼み、質問に答えて肉付けします。最後は新人と一緒に、手順書を見ながら通しで試します。

ケース1:定番作業を手順書にする(開店準備)
まず基本の流れです。例はすべて創作で、実在の店・従業員ではありません。
あなたは、小さな職場の手順書のたたき台を作る下書き係です。次の作業メモを、新人が読んで動ける手順書の形に整えてください。 【大前提】 - 書かれていない手順・時間・道具を勝手に足さない。不明な点は[現場に確認:〇〇]と書いて残す - 安全・衛生に関わる注意は、一般論で補わず[現場で確認]と残す - レシピの分量、金額、仕入先、鍵やお金の扱いは、メモに書かれていても[別管理]と置き換える - 手順の正しさの最終確認は人が行う前提で書く 【作業メモ】 - 作業名:[例:開店準備] - やること:[例:換気→床掃除→テーブル拭き→レジ立ち上げ→釣り銭確認→看板出し] - かかる時間:[例:30分] - 使う道具:[例:モップ、台拭き] 【出力形式】 1. 作業名と目安時間 2. 手順(番号つき。1手順1行) 3. 各手順の注意点(メモにある事実だけ) 4. [現場に確認]の一覧 5. 最終チェック(終わった状態が分かる1行) 【文体】 - 短い文。専門用語を使わない。命令調にしない
作業名:開店準備(目安30分) 1. 窓を開けて換気する 2. 床をモップがけする 3. テーブルを拭き、セットを整える 4. レジを立ち上げる 5. 釣り銭を確認する[現場に確認:金額の数え方は誰と行うか] 6. 看板を出す 最終チェック:客席から入口を見て、開店の状態になっているか [現場に確認] - 換気の時間の目安 - 釣り銭確認の手順(お金の扱いのため手順書には書かず、担当者から直接教わる)3. 直す追加指示
手順3を「テーブルを拭く」と「セットを整える」に分けてください。新人が初日に読む前提で、「モップがけ」の場所の順番を[現場に確認]に追加してください。お金に関する手順は、詳細を書かずに「担当者と一緒に行う」とだけ書いてください。4. Before / After
Before:頭の中にしかない状態
「開店準備は、まあ、来てもらえば分かるから。とりあえず着いたら声かけて」
After:初日から読める手順書
開店準備(目安30分) 1. 窓を開けて換気([現場に確認]の時間) 2. 床をモップがけ(順番は先輩と初回に確認) 3. テーブルを拭く 4. セットを整える 5. レジ立ち上げ(釣り銭は担当者と一緒に) 6. 看板を出す 最終チェック:客席から入口を見て開店の状態か
ケース2:「頭の中にしかない仕事」をAIに聞き出してもらう
ここが本編の中心です。長くやっている仕事ほど、自分では「何を書けばいいか」が出てきません。そこで、書く前にAIに質問させます。
あなたは、小さな職場の手順書づくりを手伝う聞き取り係です。私の頭の中にしかない作業を手順書にするため、まず私に質問をしてください。 【大前提】 - 一度に全部聞かず、答えやすい質問を5個ずつ出す - 作業の順番、判断に迷う場面、新人がつまずきやすい所を優先して聞く - レシピの分量、金額、鍵やお金の扱い、取引先の条件は聞かない(手順書に載せないため) - 私の答えに無い内容を勝手に補わない 【作業の概要】 - 作業名:[例:閉店後のレジ締め以外の締め作業] - やる人:[例:その日の遅番] - 所要時間:[例:20分ほど] 【進め方】 1. 質問を5個出す 2. 私が答える 3. 追加の質問または手順書のたたき台を出す 4. 私が現場で確認して直す
質問です。答えられる範囲で構いません。 1. 締め作業は何から始めますか? 決まった順番はありますか? 2. 途中で「これはどっちだったか」と迷いやすい作業はありますか? 3. 新人さんが初めてやると、どこでつまずきそうですか? 4. 「これだけは忘れると翌朝困る」という項目はどれですか? 5. 終わったかどうかは、何を見れば分かりますか?
3-A:答えて、たたき台にする
(質問に箇条書きで答えたあと) この回答をもとに、番号つきの手順書のたたき台を作ってください。私が答えていないことは足さず、[現場に確認]で残してください。
3-B:つまずく所を目立たせる
「迷いやすい」「忘れると翌朝困る」と答えた項目に、目印(★)と短い注意書きを付けてください。注意書きは私の回答にある事実だけにしてください。
3-C:新人の言葉に直す
職場の中でしか通じない言い方(例:「奥の台」「いつもの棚」)があれば指摘して、初日の人にも場所が分かる書き方を提案してください。4. Before / After
Before:ベテランの頭の中
「締めはまあ、流れでやってる。強いて言えば、最後に奥の元栓だけは絶対忘れないで、って感じ」
After:質問で引き出された手順書
閉店後の締め作業(遅番・目安20分) 1. 客席の窓の施錠を確認 2. 調理場の片づけ(★迷ったら翌朝の早番に残すメモを書く) 3. ゴミをまとめて裏口へ 4. ★元栓を閉める(忘れると翌朝危険。最重要) 5. 事務所の戸締まり 最終チェック:チェック表の5項目に印がついているか



ケース3:手順書を「3空欄の型」にして増やす
1本目ができたら、同じ形で他の作業にも広げられるよう、型にしておきます。
あなたは、小さな職場の手順書の型を作る下書き係です。次の3空欄だけを差し替えて、どの作業にも使える手順書テンプレートを作ってください。 【大前提】 - 空欄以外の定型句を増やさない - お金・鍵・秘密の情報を書く欄は作らない(「担当者と直接」と案内する) - 安全に関わる項目には「現場で確認」の欄を必ず残す 【3つの空欄】 1. [作業名と目安時間] 2. [手順:番号つきで記入] 3. [★注意点:現場で確認した事実だけ記入] 【形式】 - 作業名・目安時間 - 手順 - ★注意点 - 最終チェック(終わった状態) - 更新日と更新した人
[作業名:〇〇〇〇(目安〇分)] 手順: [番号つきで記入] ★注意点: [現場で確認した事実だけ記入] (お金・鍵の扱いは、この用紙に書かず担当者と直接) 最終チェック: [終わった状態を1行で] 更新日:[日付] 更新:[名前]3. 直す追加指示
「更新日と更新した人」の欄を最後に残したまま、A4一枚に収まる分量にしてください。手順が10を超える作業は「2枚に分ける」と案内を足してください。4. Before / After
(作業ごとに書式がバラバラ。誰がいつ書いたか分からないメモが混在)
全作業が同じ型:作業名/手順/★注意点/最終チェック/更新日。 新しい作業も3空欄を埋めるだけで手順書になる。
型に「更新日」を残すのがポイントです。手順書は作って終わりではなく、現場が変わったら書き直します。古い手順書は、無いより危ないことがあります。

安全に使うための4つの境界
安全の判断をさせない:火・薬品・機械・介助など、安全や衛生に関わる手順の中身は、取扱説明書・法令・専門家が正です。AIには「現場で確認」と残させます。
勝手に補わせない:渡したメモに無い手順・時間・道具をAIが足していないか、必ず見比べます。
最後は現場で試す:完成した手順書は、新人と一緒に通しでやってみて、つまずいた所を直してから正式版にします。
手順書は、読んだ人がその通りに動く文書です。だからこそ、たたき台はAIに任せても、「その通りに動いて安全か」の確認は人の仕事として残します。



まとめ:教える時間は、書く時間で取り返す
「自分でやった方が早い」は、その日の話です。1年分で見れば、同じ説明を何十回も繰り返す時間の方がずっと長くなります。
頭の中の仕事を箇条書きでAIに渡し、質問に答えてたたき台を作る。秘密とお金は入れない。安全の確認と最後の仕上げは、現場で人が行う。この分担なら、手順書づくりは「いつかやる仕事」から「今日できる仕事」になります。
まずは、いちばんよく聞かれる作業を1つ、ケース1のプロンプトで書き出してみてください。



