斎場のロビーの隅で、喪服の男性が香典袋とペンを持ったまま固まっていた。「すみません、御霊前と御仏前……どっちでしたっけ」。斎場で働いていると、この小声の質問を受けない月はありません。
先に、答えだけ言います。四十九日より前は「御霊前」、後は「御仏前」。宗派が分からず迷ったら「御香典」。これで、明日の通夜はまず大丈夫です。
この記事では、その分かれ目の理由と、香典袋の手書きのコツ(薄墨・名前の位置・会社名義)を葬儀屋の目線でまとめます。あわせて、香典に添える弔電やお悔やみの一言をAIで整える手順も紹介します。文面はAIと、表書きは自分の手で。この分担が、いちばん角が立ちません。
受付の前で、ペンが止まる
香典袋を書くのは、多くの人にとって数年に一度です。頻度が低いから、毎回どこかで手が止まる。これは知識がないからではなく、書く機会が少ないからです。恥ずかしいことではありません。
実際、斎場の受付で袋を裏返して確認する人、ロビーの端でスマホと袋を見比べる人は、毎日のように見かけます。みんな同じところで迷います。まずは早見表で、迷いの芯を1つに絞りましょう。
四十九日以降:御仏前。法要のあと弔問する時など。
宗派が不明:御香典。ほとんどの宗派で失礼になりません。
分かれ目は「四十九日」
なぜ四十九日で言葉が変わるのか。仏教では、亡くなった方は四十九日をかけて「霊」から「仏」になると考えます。だから、それより前は霊の前に供える「御霊前」、後は仏の前に供える「御仏前」。言葉の意味そのままです。

ただし、例外があります。ここは知っておくと迷いが減ります。


とはいえ、通夜の前に相手の宗派まで確かめるのは難しいものです。分からない時は「御香典」を選べば、宗派を問わずまず失礼になりません。手がかりは、訃報の文面(寺院名や「○○式で執り行います」の一言)や、会場名にもあります。それでも不明なら、無理に断定せず御香典で通す。これがいちばん安全です。
表書きの手書きのコツ
言葉が決まったら、次は書き方です。ここは3つだけ押さえれば形になります。

1つめは薄墨。通夜・葬儀の香典は、薄い墨で書くのがならわしです。「悲しみの涙で墨が薄まった」という意味が込められています。薄墨の筆ペンは文具店やコンビニでも手に入ります。四十九日を過ぎた法要では、ふつうの濃い墨で構いません。
2つめは名前の位置。水引(袋の中央の帯)の下に、表書きより少し小さくフルネームを書きます。会社の代表として出すなら、名前の右側に少し小さく社名を添えます。連名は3名までを目安に、目上の人を右から順に。4名以上なら「○○一同」とまとめ、全員の名前は別紙に書いて中に入れます。
3つめは中袋の金額。金額は旧字体(大字)で書くのが正式です。「五千円」なら「金伍仟円」、「一万円」なら「金壱萬円」。改ざんを防ぐための昔ながらの作法です。裏面には住所と氏名を書き添えます。遺族が香典返しを準備するとき、この情報が助けになります。
見本の名前は架空のものです。実際に書くときは、ご自身やご自身の会社の名義に置き換えてください。
AIに任せるのは「調べ物と添える言葉」
表書きそのものはAIに書かせません。あとで理由を書きます。ただ、香典のまわりには「文章で悩む場面」がいくつもあります。弔電、参列できない時のお悔やみメール、香典に添える一筆箋。ここはAIが助けになります。
コツは、状況を渡すことです。ためしに、状況なしで頼むとどうなるか見てみましょう。
弔電の文面を作ってください。
これだと、どこにでもある定型文が返ってきます。誰にでも当てはまる代わりに、誰にも響きません。立場と関係を足すだけで、文面は変わります。
取引先の社長のお父様が亡くなり、通夜に参列できないため弔電を送ります。 ・宛名は社長宛て ・会社の代表として送る、少し硬めの文面で ・忌み言葉(重ね言葉や生死の直接表現)は避ける ・故人との具体的な思い出は入れない(面識がないため) ・80〜120字で3案ください
「忌み言葉を避ける」「思い出は作らない」まで指定するのがコツです。AIは頼めば思い出話も作ってしまいます。無い事実を弔文に入れるのは、いちばんの失礼になります。だから、事実の範囲はこちらで区切って渡します。
AIに任せること、人が守ること
ここが、この記事でいちばん大事なところです。香典まわりでAIに任せていいことと、人が握っておくことを、はっきり分けておきます。

宗派は断定させない:AIの答えは候補どまり。最終確認は訃報の記載・葬儀社・遺族へ。宗旨の断定はAIに任せません。
思い出を作らせない:面識のない故人のエピソードをAIに書かせない。無い事実を弔文に入れない。
表書きは自分の手で:文面の下書きまでがAIの仕事。香典袋の表書きは、印刷やAI任せにせず自分の手で書きます。
最後の一つだけ、理由を添えます。香典袋は、受付で必ず人の目に触れます。書いた文字が、そのまま気持ちとして遺族に届く。だからここは、上手でなくていいので、自分の手で書きます。字の練習をしておきたい人は、記事の最後に練習帳を案内しています。
そのまま使える完成プロンプト3ケース
状況の部分を自分のケースに置き換えれば、そのまま使えます。関係性・宗派・日程の3つを変えるだけです。
① 香典の表書きを確認したい
香典の表書きを確認したいです。 状況:明日が通夜/亡くなったのは取引先の会長/宗派は不明/私は会社代表として参列。 表書きの候補と理由、会社名義(社名+代表者名)の書き方、参列前に葬儀社や先方に確認すべき点を一覧にしてください。断定できない点は「要確認」と明記してください。
② 参列できない時の弔電
取引先の社長のお父様が亡くなり、通夜に参列できないため弔電を送ります。宛名は社長宛て。 忌み言葉(重ね言葉・生死の直接表現)を避け、故人との具体的な思い出は入れず、80〜120字で3案。会社として送る硬めの文面でお願いします。
③ 後日弔問で添える一筆箋
四十九日を過ぎた知人宅へ後日弔問し、御仏前を持参します。 香典に添える一筆箋の文面を60字前後で3案。手書きしやすい短さで、季節の挨拶は入れず、遺族の負担にならない結びの言葉にしてください。
迷ったときの行動指針は、2つだけです。
②文面はAI、表書きは手書き:弔電や添え文はAIに下書きさせ、袋の表書きだけは自分の手で書きます。
御霊前・御仏前の書き方に特化した、なぞり書きの練習帳(PDF・A4印刷用)を作りました。→「御霊前・御仏前の書き方 なぞり書き練習帳」。お祝いごとの表書きも含めた総合版が欲しい方は「香典袋・のし袋の表書き なぞり書き練習帳」もあります。
葬祭の現場でのAI活用は「葬祭業にAIは無理?司会原稿・案内文のたたき台をAIに任せる方法」で、AIの答えがいまいちな時の直し方は「AIの答えが「いまいち」な時に返す言葉10選」でまとめています。封筒やはがきの宛名の書き方は「宛名の「様」と「御中」どっちが正しい?|封筒の宛名練習」でどうぞ。
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